「夢が実現するわ」 笑顔で旅立つ彼女。
過酷な境遇と頼らぬ強さ。2022年、迎田良子さん(64)が安楽死するためにスイスに渡った。重い神経難病を患ってきた彼女は死の直前、立ち会った記者に語りかけた。「安楽死することは悲しいことではない。やり残したことは何もないし、本当に幸せな人生だったの。やっと夢が叶うのよ」。過酷な幼少期を経て、度重なる困難にぶつかろうとも、たった独りで人生を切り拓いてきた迎田さん。「誰かに頼って生きるなんて嫌なのよ」。彼女はなぜ人生の終わりに、安楽死を選んだのか。
監督:西村匡史 ©TBS
監督:西村匡史
Comment
2022年1月、当時ロンドン特派員として安楽死の取材を続けていた私のもとに、日本にいた迎田さんから突然、メールが届きました。
日本での安楽死の法制化を望み、「お伝えしたくて声を上げました」と自身の取材を通して、安楽死を考えてもらうきっかけにしてほしい、
とのメッセージでした。それから1年間、イギリスと日本の間でのオンライン通話のやりとり、東京、ジュネーブ、バーゼルでも時が過ぎるのを忘れて、語り合ったことを思い出します。
初めて会った迎田さんは「もっと暗い人間を想像していたでしょ。でも後悔がないし、最後の日が決まったから、かえって充実しているの」
と、屈託のない笑顔で迎え入れてくれました。しかし、その明るい表情とは裏腹に、彼女の人生は過酷な運命に翻弄され続けた歴史でもありました。それでも自分自身で人生を切り拓いて生きてきた「誇り」が、彼女を支えていたように思います。安楽死を考えることは「生と死」を考えること。迎田さんの生き様が、「いのち」をみつめ直すきっかけになることを願ってやみません。
Profile
1977年4月28日生まれ、新潟県出身、東京都育ち。2003年にTBS入社。報道局社会部で警視庁、横浜支局、検察庁、裁判所を担当。
「NEWS23」、司法キャップを経てロンドン特派員として安楽死を取材。現在、「報道特集」の記者。事件、事故、震災、戦争、自死などの被害者取材から、死刑囚やその家族などの加害者側の取材まで、一貫して「いのち」をテーマにした特集を手掛ける。
主なドキュメンタリー作品に「8.12日航ジャンボ機 墜落事故30年の真相」、「世界一寛容なノルウェー刑務所 ~77人殺害テロ事件遺族の葛藤~」、「ボスニア紛争 ~8000人犠牲のスレブレニツァ虐殺現場の今~」、「遅すぎることはなかった ~オランダ戦後75年の補償~」など。
映画監督として「死刑囚に会い続ける男」、「さっちゃん最後のメッセージ ~地下鉄サリン被害者家族の25年~」を制作。
著書に「悲しみを抱きしめて 御巣鷹・日航機墜落事故の30年」(講談社)。「報道特集」で放送され、大きな反響を呼んだ特集記事
「安楽死を考える スイスで最期を迎えた日本人 生きる道を選んだ難病患者」で、2024年の「LINEジャーナリズム賞」年間大賞を受賞。