クマと人の課題。
その背景に見えてきたのは、人と人の課題だった。夕食後、外でガラスが割れる音が響いた。窓を覗くと、黒い影が見えた。ヒグマだ。「家に入ってくるかもしれない…」そんな恐怖の夜が、2か月も続いた。やっと解決したかに思えたとき、今度は住民が頼ってきたハンターたちの姿が突然消えた。クマの被害、ハンターの制約、政治の不透明さ。7年前、北海道の小さな村が直面した課題は、今や全国に広がっている。村が歩んできた道のりに、クマ対策のヒントがあった。
監督:幾島奈央 ©HBC
クマと人の課題。
その背景に見えてきたのは、人と人の課題だった。夕食後、外でガラスが割れる音が響いた。窓を覗くと、黒い影が見えた。ヒグマだ。「家に入ってくるかもしれない…」そんな恐怖の夜が、2か月も続いた。やっと解決したかに思えたとき、今度は住民が頼ってきたハンターたちの姿が突然消えた。クマの被害、ハンターの制約、政治の不透明さ。7年前、北海道の小さな村が直面した課題は、今や全国に広がっている。村が歩んできた道のりに、クマ対策のヒントがあった。
監督:幾島奈央 ©HBC
COMING SOON
監督:幾島奈央
Comment
私は何度もクマに会ったことがある。それは偶然ではない。
2019年、札幌市南区の住宅地に毎晩のようにクマが現れるようになった。日中に取材に訪れた私は、クマはなぜ、どうやってたどり着いたのか、ルートを予想しながら現場を歩いた。ここではないかと思った場所を撮影。日が暮れるまでまだ時間はあるが、念のため早めに車に戻ろうとドアに手をかけたそのとき、バキバキと大きな音が聞こえた。見ると、先ほど撮影していた場所から、ゆっくりと黒い前足が現れた。
悔しかった。ここがクマの通り道ではと予想した理由は、前年の小さな村での取材にあった。出没の原因が共通していたということになる。また同じ課題が繰り返されてしまったのだ。その後も各地でクマに怯える人、大切な人を失った人の声を聞くたびに、悔やんできた。
クマの取材を始めてたった1年の私が通り道を予想できたということは、「背景を知っていれば出没を防ぐ術がある」ということでもある。課題は人間社会にある、つまり解決のカギも人が握っている。
「地方自治は民主主義の学校である」。あなたの命や暮らしを守るために、小さな村の日々を「じぶんごと」として見てほしい。
Profile
2018年HBC入社。報道部で警察・司法担当。配属2か月目で偶然取材を担当した1頭のクマをきっかけに、各地のクマの出没・対策の取材に携わる。その中で「同じ課題が繰り返されているのでは」と感じるようになった。ディレクターとしてテレビドキュメンタリー「クマと民主主義」3作(2019、20・放送文化基金賞奨励賞/企画賞、24)、「核と民主主義~マチを分断させたのは誰か〜」(2021・ギャラクシー賞奨励賞)、ラジオドキュメンタリー「隠された性暴力~28年前の少女からの訴え~」(2021・ギャラクシー賞奨励賞/日本民間放送連盟賞優秀賞)を制作。21年7月からデジタル推進部。WEBマガジン「Sitakke」で暮らしの知恵や北海道の魅力、多様な価値観について発信している。23年4月にはクマと人の“いい距離の保ち方”を考えるサイト「クマここ」を立ち上げた。
専門家監修の「クマに出会わないために」「それでも出会ったら」の基本の知恵や、全道の出没からの教訓などを紹介している。自治体や企業・学生などと協力しクマ対策や啓発のイベントも実施。「知ることで防げる出没や被害がある」と考え、様々な形で発信を続けている。